ゾンビ映画大事典

2020年12月14日 19:09

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出版社:洋泉社
出版年月:2003年3月
著者:伊東美和
ページ数:444頁
定価:3,800円(本体価格)


・ゾンビ映画史概論
・ゾンビ映画大事典【第1部】1932-1969
・ラザロの裔
・ヴードゥー・ゾンビとモダン・ゾンビ
・ゾンビ映画大事典【第2部】1970-1979
・イタリアン・ゾンビ映画史、少し裏話つき
・グロテスクでコミカルな香港ゾンビ映画の世界
・ゾンビ映画大事典【第3部】1980-1989
・ラム・チェンインとキョンシー映画の世界
・アジア発ゾンビ映画紀行
・ゾンビ映画大事典【第4部】1990-2002
・チラーシアター、ゾンビ俳優に会う!
・ゾンビ映画監督列伝
 ジョージ・A・ロメロ
 ルチオ・フルチ
 アマンド・デ・オッソリオ
 ジャン・ローラン
 ポール・ナッシー


あとがきにもあるが、本書は著者が2000年に自費出版を行った『ゾンビ手帖』がベースになっており、そこにレビューやコラムを新たに追加して2003年に出版されたものである。これまでにも、ホラー映画をまとめた書籍はあったものの、ゾンビ映画だけを集めて解説したものはおそらく日本には存在せず(海外にはこういった研究書なるものがいろいろとあって、羨ましいなあと思うのですが―)、かつ収録されている膨大なゾンビ映画全てを実際に見てレビューしているのだから、本当にスゴイとしかいいようがない。いくら好きなこととはいえ、並大抵の気持ちでは続かないと思うので(なにせ一人でやっておられるので)、素直にただただ感動してしまうのであります。

日本で公開された有名なものからビデオリリースにとどまった作品に加えて、名前も聞いたことのないような未公開・未発売のゾンビ映画も出てきて本当に「世界は広いんだなあ」と感心するとともに「ゾンビ映画もこんなに存在するのか」とこれまた感心。ネットが普及していなかった時代なら全てを網羅することはおそらく不可能であったと思われるが、例え現在のような日本に居ても世界中の情報を収集できる環境であっても、やっぱり熱意がないとここまで集めることはできないでしょう。なにせゾンビ映画でまともに見れる作品というのは一握りで、むしろ駄作珍作のほうが多数を占めているというカオスな分野。ストーリーは破綻しているけれどもゴア描写ではキラリと光っているようなイタリアンゾンビ映画なんかは全然ましな方で、物語もダメ、残酷描写もチープ、俳優の演技は大根、監督の演出はクソみたいな何一つ良いところが存在しない自主製作映画に毛の生えたものでしかない映画が山のようにあって、そんな作品を見続けていたら心が折れてもおかしくない・・・でも、探求をやめなかったからここまで辿り着いた、そんな著者の歴史を垣間見れる気がします(駄作の辛辣なレビューを見るのもこれまた楽しい♪)。

大事典と銘打っていることもあり、巻末には、作品名での索引と人物名の索引が収録されており、また各作品は年代順に並んでいるので、何らかの情報があれば探し当てることができるのは有難い。また、ソフト化されたものは小さいながらもジャケット写真もあり、クレジットも記載、作品の概要をこれ1冊でほぼほぼ掴めてしまう。今の時代、もちろんネットで検索すれば何かしらの情報はヒットして入手できるものだが、ある程度の情報をまとめて見るとなると紙媒体のほうが早いし探しやすいのが利点だ。逆に弱点となるのは、大きく重たいところ。なにせ400頁を超えるページ数なので外へもって出るのには適しておらず、これは致し方がないところ。あと発行が2003年で、2002年までの作品しか収録されていないことも指摘されていたが、これは続編の『ゾンビ映画大マガジン』が同じ洋泉社から2011年に発行されており、2010年までの様々なゾンビ映画が収録されている。しかし、この『ゾンビ映画大マガジン』からもすでに9年ほど経過しているので、そろそろ第3弾の発行を期待しているがどうなんでしょうかね。



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『ゾンビ映画大事典』は書籍扱い、『ゾンビ映画大マガジン』の方はムック本として発行。





21世紀ホラームービー年代記

2020年12月13日 19:10

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出版社:洋泉社
出版年月:2017年7月
ページ数:233頁
定価:1,500円(本体価格)


第1章 21世紀のハリウッド恐怖映画
     ・巻頭座談会 21世紀ホラーの動向 何が変わり、何が恐れられるのか
     ・恐怖のキーパーソン、その1 新時代ホラーの仕掛人ジェイソン・ブラム
     ・恐怖のキーパーソン、その2 『エクソシスト』に続くヒット作を打ち出すジェームズ・ワン
     ・恐怖のキーパーソン、その3 『ヴィジット』で完全復活したМ・ナイト・シャマラン
     ・ロバート・ゼメキス、マイケル・ベイ・・・ヒットメイカーが群がったゼロ年代ホラー・リメイクの功罪
     ・ハリウッドがホラーのリメイクに傾いた時代背景
     ・全米最新ヒット作研究
       奇跡の黒人ホラー映画『ゲット・アウト』
       魔女の呪いを再解釈する『ウィッチ』
     ・『テキサス・チェーンソー』から『ファイナル・ガールズ』まで、これだけは押さえておきたいアメリカン・ホラー十傑
     ・劇場で封切られなかったのが謎!本気で怖いアメリカン・ホラー裏十傑
     ・拷問ポルノ騒動再考
     ・ゾンビ・アポカリプス路線の終焉
     ・やはり宇宙人映画は恐ろしい
     ・POVホラーとポスト真実
     ・不法侵入路線恐怖映画を改めて検証
     ・プラクティカル・エフェクト~CGに背を向けて人体破壊を目指す現在
     ・大いなるマンネリズム『ファイナル・デスティネーション』はなぜ人気シリーズになったのか
     ・ティーンズ映画の恐怖~思春期は人生で最も恐ろしい時期
     ・鉄板系ホラー、動物パニック映画の新時代
     ・イーライ・ロスからフェデ・アルバレスまで、新時代ホラー映画のマグニフィセント7
     ・カナダ・オセアニア英語圏ホラーの現在

第2章 飛躍するアジアン・ホラー
     ・劇画ロードショー『新感染/ファイナル・エクスプレス』
     ・箸休め洋画劇場・タイの懐かしホラー映画ポスター大全
     ・ヘル・コリア世代の鬼才!『新感染』監督ヨン・サンホ
     ・現代韓国恐怖映画事情
     ・現代香港恐怖映画事情
     ・現代東南亜細亜恐怖映画事情
     ・現代中東恐怖映画事情

第3章 新たなる恐怖の震源地ヨーロッパを往く
     ・不滅の恐怖王ダリオ・アルジェントは21世紀ホラーをどう考えるか
     ・フレンチ・ニューウェーブ・ホラーの総括
     ・情熱と怪奇の国スペインの21世紀ホラー
     ・ネクロストームから『グッドナイト・マミー』、新時代ジャーロまで、ヨーロッパ・ホラー・シーンを俯瞰する

第4章 日本のホラーはこれからどうなるのか?
     ・すべては『リング』のハリウッド・リメイクから始まった~Jホラー盛衰記
     ・『クリーピー 偽りの隣人』から『散歩する侵略者』まで、黒沢清のラディカリズム
     ・『戦慄怪奇FILE コワすぎ!』で愛される白石晃士の異次元世界
     ・血まみれピンク映画で気を吐く山内大輔に注目
     ・激安心霊動画にハマった男

21世紀ホラー、今後の展望


本書が発行されたのが2017年なので、2000年以降約20年弱のホラー映画の潮流をジャンル別・国別・フィルムメーカー・キーポイントとなった作品など様々な視点から解説したムック本。もちろん、雑誌映画秘宝のの別冊シリーズの1冊なので、読者層もそれなりにマニアックなはずであるし、それに応えるように執筆陣も濃い布陣。普通の映画誌では取り上げることすらないような作品群の濃密に解説してくれていて、それを読み進めていくだけでも結構な時間を要するが、それがまた楽しかったりします。「アメリカン・ホラー裏十傑」で紹介されているので見たことあるのなんて『ツールボックス・マーダー』しかなかったし、本当に知らない作品はまだまだ沢山埋もれていると感じましたが、それだけこれから知る楽しみもあります。

しかし、巻頭の座談会でも発言されていますが、年代によって感じる温度差っていうのは本当にあって、70年代80年代を過ごしてきたものからすれば90年代はホラー映画にとって極寒の時代であったし、それに続く00年代以降は復活しつつある時期であったはずだけど、以前とは異質なムーブメントな気がするわけで。サスペンスとスリラーとホラーの境界線であったり、恐怖の見せ方の違いやそれを受け止める側の考え方の違いとか~残酷なものを見たと厭なものを見たとの違いとか~、なるほどなあ・・・と共感してしまうところがありました。個人的には“心安らぐホラーの黄金期”のポスター大全が楽しかったのと、近代映画社の『THE HORROR MOVIES』シリーズのロゴを模しているのが懐かしかった。


ゴア・ゴア・ガールズ

2020年12月09日 22:43

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【原題名】THE GORE GORE GIRLS
【製作】ハーシェル・ゴードン・ルイス
【監督】ハーシェル・ゴードン・ルイス
【脚本】アラン・J・ダッチマン
【撮影】エスカンダー・アメリプール
【音楽】シェルドン・セイモア
【出演】フランク・クレス、エイミー・ファレル、ヘッダ・ルービン
【製作年度】1971年
【製作国】アメリカ
【上映時間】84分


【STORY】
ゴーゴーダンサーが惨殺される事件が発生、新聞記者のナンシーは私立探偵のエイブラハムを雇い事件を追う。ストリップクラブに潜入して聞き込みを続けるが、ダンサーたちが次々に殺されていく。犯人をおびき寄せるため、エイブラハムは素人ストリップコンテストの開催を持ち掛ける。コンテストは、飛び入り参加したナンシーが優勝、その夜酔いつぶれたナンシーのもとに殺人鬼が現れた。エイブラハムに正体を見破られた犯人はマンションのベランダから飛び降り地面に激突、通りすがりの車が犯人の頭をひき潰していく。

【REVIEW】
スプラッタームービーの帝王ルイスの取り合えず引退作品。『血の祝祭日』『悪魔のかつら屋』『2000人の狂人』など1960年~70年だにかけて低予算スプラッタームービーを製作、ドライブインシアターを中心に人気を博すが、本作をもって映画製作を離れることになる。ルイス作品は、その後の80年代のホラーブームで再評価を受け、ビデオリリースも続き、ルイス本人も2002年に『ブラッド・フィースト 血の祝祭日2』で監督に返り咲くことになる。

この『ゴア・ゴア・ガールズ』でもスプラッター描写が盛り沢山で、ダンサーの顔面を鏡に執拗に打ち付けてグチャグチャに潰したり、刃物で目ん玉を抉りだしたり、沸騰した油に顔面を押し付けたり、熱したアイロンで顔面を焼いたりと、これでもかと美女がエグイ殺され方をされまくります(これには、犯人の過去の恨みが関係している)。もちろん、古い作品なので、特殊メイク自体はリアルではないが、作り物と分かっていても時間をかけてネチネチと顔面を損壊させていく描写は病的な匂いさえする。それでも、怖さがあまり感じられないのは、殺人に至るまでの描写があまりにもあっさりしていて、非常に明るい感じがするから。主人公の探偵が潔癖症でスカしたキャラだったり、捜査している刑事も真面目なのか馬鹿なのか微妙な設定で、やっていること演技も含めてほとんど素人同然だから仕方がないのかも(実際、本業の役者よりも、ルイスの知人が大挙出演しているらしいから、素人映画なのだろう)。ということで、見せ場はゴア描写とこれまたやたらと出てくるダンサーたちのヌード描写。まあ、脱いでは殺され、脱いでは殺されていき、分かりやすいある意味素晴らしい映画なのかもしれません。


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R.I.P Daria Nicolodi

2020年12月07日 23:40

11月26日にイタリアの女優ダリア・ニコロディが亡くなった。実の娘アーシア・アルジェントが明かしたもので、享年70歳だったらしい。ダリオ・アルジェントの公私にわたるパートナーであったことは有名だが、彼女無くして名作『サスペリア』は誕生していなかったといっても過言ではないでしょう。また、アルジェント作品とりわけ絶頂期と言われる作品に出演し印象に残る役柄を演じてきており、個人的には『シャドー』のアン役でラストのエンドレスに叫び続ける絶叫シーンは忘れられない。『フェノミナ』のブルックナーの狂気じみた演技も好きだっただけど。

彼女の姿はアルジェント作品で永遠に生き続けることでしょう。合掌。

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家にある出演作品。『サスペリアPART2』『ザ・ショック』が買いそびれてないのが残念。

クロール -凶暴領域-

2020年12月05日 21:32

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【原題名】CRAWL
【製作】サム・ライミ、クレイグ・フローレス、アレクサンドル・アジャ
【監督】アレクサンドル・アジャ
【脚本】マイケル・ラスムッセン、ショーン・ラスムッセン
【撮影】マキシム・アレクサンドル
【音楽】マックス・アルジ、シュテフェン・トゥーム
【出演】カヤ・スコデラーリオ、バリー・ペッパー
【製作年度】2019年
【製作国】アメリカ
【上映時間】88分


【STORY】
大学の競泳選手であるヘイリーは、姉のべスから父親のデイブと連絡が取れなくなっていることを聞かされる。デイブは離婚後フロリダで独り暮らしをしており、その地域一帯にはハリケーンにより避難警報が発令されていた。気になったヘイリーは暴風雨の中実家へ戻り、家の中を探すうち、地下室で重傷を負ったデイブを発見する。助け出そうと階段へ向かうが、巨大なワニと遭遇し地下室から抜け出せない。この家の周りの湿地帯にはもともとワニが多数生息しており、折からの大雨でワニが家の周りまで入ってきていたのだった。地下室内はどんどん浸水し、二人はワニの攻撃をかわしながら何とか脱出を試みる。

【REVIEW】
昨年、スクリーンで鑑賞した『クロール-狂暴領域-』が安くなっていたので、ソフトを購入して鑑賞。劇場で見たときには、昨今の公開作品が150分を超えるものも珍しくない中、上映時間90分弱と潔い短さで若干物足りなさもありましたが、自宅で見ると丁度良い長さ。この手の動物パニック物は短く感じるくらいが丁度いい気がします。

で、この映画、主な登場人物は主人公親子+飼い犬(名前はシュガー)のみでほぼ進行、途中、助けを求めようとした若者3人(向かいの店で火事場泥棒中)や様子を見に来た警官2人(うち一人は姉のベスの元カレ)はワニの群れに瞬殺されてしまい、結局人間2人でワニと対峙することに。「結構ワニに噛みつかれて重傷なのに結構素早く動けちゃうのね」とか、「ワニが居るはずの場所で結構のんびり水に浸かっちゃっているいるのね」とか、いろいろと突っ込みどころは存在するものの、ワニの造形や襲ってくるタイミング、ワニとの攻防場面が良くできていてワニの群れ+洪水からの脱出劇として単純に楽しめる作品だと思います。まあ、ほかに存在するワニ映画が出来の悪いものも多数存在するんで、それらと比べれば至極マトモな映画である気がします・・・(比べたらあかんのかもしれませんが・・・)。

主人公のヘイリーと父親のデイブとの関係がこのワニ事件で回復していくのをサラッと組み込んでいるのはいいんですが、ワニの群れが多数泳ぐ水の中で「お前ならできる!!」とヘイリーにボートまで泳がせるシーンには「おいおい、それはないんとちゃう!?」とさすがに自分も突っ込んでしまいましたが、一応競泳生活で思い悩んでいたヘイリーが自ら殻をぶち破ったということで良しとしておきます。タイトルも『クロール』ですしね。監督のアレクサンドル・アジャは、同じ水中パニック物で過去に『ピラニア3D』を撮っていましたが、ブラックなジョークが散りばめられていたピラニアと比べると本作はシリアスに徹していて笑う場面はほぼ無し。ワニも怪獣っぽくはなくリアルな生物として描いていて真面目な作り。脚本にはもうひとひねりほしかった気もしますが、まあ見ても損のないワニ映画だとしておきます。


クロール003

クロール001

クロールステッカー
ブルーレイ+DVDのセットで購入。謎のワニのステッカーまで付いていました。






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